(徒然道草その46)現世の「竜宮城」オマーン訪問記⑥
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(徒然道草その46)現世の「竜宮城」オマーン訪問記⑥

2017年04月26日(水)2:19 PM

最後の晩餐会のテーブルで私の隣に座ったのは、三菱商事の社員である若くて背の高いオマーンの好青年であった。近隣のアラブの国々と違って、オマーンには肥満な人が見当たらない。白いディシューダーに身を包んだその青年に向かって、私は率直にオマーンの「50年後の地下資源無き未来」について、日本語で話しかけた。

オマーンの地には5つの天の恵みがある。それは太陽・砂漠・海・風・高い山脈である。これを活用しようというのが私の未来ビジョンである。

人の住まない内陸部の砂漠に琵琶湖ほどの巨大な人造湖を造り、国土の30%を緑に変え、樹木を育て、農耕地を広げ、牧草地にはオリックスを家畜として飼う。その仕組みは、まず、かつて大海洋帝国を築くときに活用したインド洋モンスーンの風で風力発電を行う。その電力を使って海水をくみ上げて人造湖に注ぎ込む。55度にもなる熱い太陽が水蒸気を発生させる。水蒸気は上昇気流となり3,000㍍の山脈にぶつかって雲が発生する。その雲は大量の雨を降らせる。その水で山に木を植え、緑地を増やす。日本の技術によって、バクテリアや土中の細菌やミミズを増やし、落ち葉や近海で獲れる海産物(アラブ人はあまり食べない)を肥に変える。30年後、50年後には、サラサラの砂の大地や岩山が、豊かな土壌に生まれ変わる。

高原ではコーヒーや紅茶といった換金作物を育てる。山の斜面には杉など輸出できる木材を植林する。広い牧草地もつくる。平地では野菜や果物や穀物を育てる。湖では魚やクロレラを養殖するとともに、塩を生産する。それらを使ってソーダ工業を起し、農業、漁業、牧畜や食品加工を新たな産業にする。こうして、ヤギとラクダとナツメヤシだけの生活から脱出する。

液晶を使った太陽光発電は、高温では発電効率が劣るし、砂漠の砂は大敵である。そのため、太陽光発電所は砂嵐を防ぐために緑地帯で囲む必要がある。さらに55度の高温でも効率的に発電できる液晶発電技術を日本と協力して開発する。反射鏡を使って太陽光を集めて水を沸騰させる発電方式も有効であろう。いずれにしても砂漠の海水湖近くで太陽光発電を行う。発電した電力は、社会生活や緑化事業やソーダ工業に使うだけでなく、水を電気分解して水素と酸素を生産する。水素は石油に代わる重要なエネルギー源である。間違いなく将来の世界は「水素社会」へと進むであろうから、太陽光を使った安価な生産基地を建設すれば、水素は有力な輸出品になる。

牛の仲間であるオリックスは野生のヤギやラクダのようにオマーン各地に生息していたが、美味しい肉と長く真っすぐで見事な角のために殺されてしまい野生から姿を消した。そのオリックスを保護し復活させるカブース国王の試みは、着実に成果をあげている。このオリックスを増やして牧場で飼う家畜にする。豚肉を食べないイスラーム世界において、ヤギや羊やラクダの肉よりも、もっと高級な食材になるはずである。オリックスの角も工芸品の材料になる。

また、日本の三陸海岸がそうであるように、山から森の水が海に流れ込めば、そこには豊かな漁場が生まれる。国土の30%が緑地帯になれば、オマーンの海にも新たな恵みをもたらし、沿岸漁業が発達するかもしれない。

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オマーンはドバイに代わる物流基地を狙ってサラーラに巨大なコンテな基地

を建設している。ここから紅海沿岸やからアラビア半島全域、さらには東アフリカに向けて内陸部をトラック輸送するためには、道路網の整備とともに、トレーラーの燃料確保が重要である。そこで、ここでも無尽蔵の太陽光を活用する仕組みを構築する。砂漠の中の各所に太陽光発電拠点を設け、トレーラーの蓄電池に充電し、何台か待機させる。牽引するトレーラーと荷物を積んだコンテナを、カートリッジ方式で、この発電拠点で切り替える仕組みを開発する。 

 サラーラの港に海外から運ばれてきた大量の荷物を、仕向け地ごとに振り分けてコンテナに詰め込む。そのコンテナを電気自動車に結合して、発電基地まで運ぶ。到着するとコンテナは、充電して待機中の牽引車に結合して、次の基地まで走る。そこでまた、新しい電気自動車に切り替え、目的地まで走る。コンテナから切り離されたトレーラーは次に備えて、点在するこの太陽光発電所でいつでも走れるように充電する。このカートリッジ方式輸送網は、いわば初期投資だけで、後は「燃料代タダ」で済む。原油が枯渇しても心配はない。

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 オマーン人の青年は、「国民の誰もが将来のことを心配し、どうすればよいか考えている、しかしいい知恵がないのが現状である」と語った。国家の将来のためには、教育が最も重要であり、内政改革でその取り組みはすでに大きな成果を上げていること、オマーンでは女性差別は全くなく、門戸は開かれ様々な分野に進出できるようになっていることも強調した。

 カブース国王は今年11月18日の誕生日(ナショナルデー)には、77歳になる。近年は体調を崩し、ドイツの病院に数カ月入院したこともある。皇太子がいないために、次期国王が誰になるのか、目魁影老は心配でならないが、オマーン国民は極めて冷静であるように思った。国家基本法に「次の世代」の選出については明記してあるようである。

 また、国際的な原油価格が一時は1㌭35㌦台にまで下がったため、オマーンは大変な財政不安に陥った。そのため昨年は100億㌦、今年はやや原油価格が持ち直したがそれでも75億㌦を海外から借り入れなければならなくなり、オマーンの国際的格付けもぎりぎりの状況にまで下がっている。この苦境を乗り切るために、国家が直接投資する方式を改め、発電所建設などに外資や民間資金を導入する仕組みづくりを着々と進めている。

 カブース国王は、オマーン国内にだけ思いを巡らしているわけではない。イラン革命の余波が及ぶことを防ぐために、アラビア湾岸の王政6カ国、サウジアラビア、クウェート、バーレーン、カタール、UAE、オマーンは、1981年にGCC(湾岸協力会議)を結成した。現在でも、イランとサウジは激しく対立し、宗教も絡んで、中東地域の主導権争い演じているが、オマーンはこの双方のどちらにも偏ることなく、むしろ積極的に両者の調停を働きかけている。

 カブース国王は、さらに将来は「やがて政治的な国境は無くなり、平和な地球市民として暮らす時代が来る」という壮大な夢までも抱いている。

 オマーンは、欧米の自由主義の押し付けや、共産主義イデオロギーの侵入を嫌い、独力で明治維新を成し遂げた民族的対立が無く平和な日本に着目する親日的な国である。目魁影老は、オマーン・スルタン国がいま直面する課題をどのように克服していくのか、これまでの半世紀のこの国の歴史も含めて、日本こそ、オマーンに学ぶことは多いと思っている。

 「オマーンはドバイのような失敗はしない」と、思慮深く日本語を選びながら語る、青年の一言が印象的であった。



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